Archive for 3月 10th, 2002
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地域通貨の限界
地域通貨について考えてみたい。
地域通貨の概念そのものは既に市民権を得たといえようが、実際の成功例は数えるほどしかなく、実行中のプロジェクトも広がりを欠くものが多い。
地域通貨の基本的概念としては、以下のものが挙げられよう。・ある特定の領域(空間・コミュニティ)において通用する価値交換手段である。
・多くは既存の国家通貨と交換性を持たない(あるいは国家通貨→地域通貨の一方向的兌換性しかない)。
・地域通貨と交換される価値は“時間”である。ある一定額の地域通貨は、ある一定時間の労働と交換可能である。
・通貨発行形態には、集中管理型と分散発行型の双方がある。
・対価サービスを満足して受益するには、支払者と受取者の間で相互のスキルや信頼性への理解が必要となる。つまり地域通貨とは、
「信頼関係が構築しやすいコミュニティにおいて、現在の通貨では交換が困難なニッチ・サービスを流通させるために用いるのが地域通貨である。通貨の単位は時間に基づいている」
とまとめることができる。この理論が広く喝采を受けたのも、コミュニティ・コーペラティズムの実践ツールになることを期待されたからである。
しかしながら、なぜ「地域通貨」は精彩を欠いたまま、その理論が敷衍されることがないのだろうか。それは現在の「交換」制度のパラダイムと、大きく対立する概念を保有しているからではないか。一見すると既存国家通貨のサブセットともいえる地域通貨だが、それと大きく異なるのはその単位が保障するサービスのスキームである。現在の社会では、原則として一定単位の通貨が保障するのは一定質のサービスである。言い換えれば結果としての産物を保障する仕組みだ。それに対し地域通貨はどれだけの時間コストを必要とするかを計測することに主眼がおかれており、これは経過を保障する仕組みに他ならない。逆に言えば、多くの地域通貨はその時間内に提供されたサービスの質を保障しない。それは下表のように例示できる。
(既存通貨での価値換算)
植木職人の上質なサービス 6単位通貨(作業は3時間、時間あたり2単位)
副業職人のサービス 4単位通貨(作業は4時間 時間あたり1単位)(地域通貨での価値換算)
植木職人の上質なサービス 1単位通貨(比較的レベル高の作業が30%終了)
副業職人のサービス 1単位通貨(比較的レベル低の作業が25%終了)
→結果的に、スキルが低い人間の方が受取額が多くなる。地域通貨は価値還元を時間に集約させているため、効率性やスキルの差を考慮することが極めて困難である。これは、地域通貨がそもそも平等性や相互扶助を原点にして創られた理論のためでもある。
ゲーム理論的に解釈すれば、地域通貨スキームは「能力のある人間が損、能力がない人間が得」をする、『能力の累進課税制度』であり、能力のある人間が参加するモチベーションを持たないシステムでしかない。結果として地域通貨コミュニティに参画するのは・特段のスキルがない人間
・比較的非効率な作業をする人間
・フリーライドを目論む人間が多数を占め、有益なサービスをシステム内部で誕生させることが困難になっていく。麗しくも儚い理念の悪循環の中で、地域通貨は衰退するしかないのだ。結論として、「地域通貨は『通貨』を名乗りながらも、『通貨なるものが保有する概念を満足していない』ために有効に機能しない」のだといえる。
では、地域通貨を活性化させるにはどうすればよいのか。
真っ先に思いつくのは、細分化したコミュニティにそれぞれ地域通貨を導入し、各地域通貨どうしの交換所を設けることである。参加者を同質化させるような情報縁コミュニティの原理に基づき、わりと同質のスキルを提供できる人間どうしごとに地域通貨を保有する。別の地域通貨が欲しければ、自己の地域通貨と相手の地域通貨を、マーケット原理に基づく交換比率で換算し、それを利用する。
しかしながらこの方法は現在の市場メカニズムそのものであり、コミュニティ間の悪しき差別化を助長するであろう。全く現在の金融グローバリズムのミニチュア版であり、地域通貨の平等理念そのものを否定することにつながる。思いつく解決策のもう一つに、「能力差が問題なのであり、能力が劣る人間に学習インセンティブを与えるサブシステムを導入すればよい」という考え方がある。地域通貨コミュニティに参加する場合には、自らが提供するスキルに関する一定の学習を義務づけ、努力基準に満たない場合は参加を排除する、というのが具体的な実行法だろう。しかし、これにはコミュニティに強い権限を付加することが必要となって、コミュニティがビューロクラシーに陥るリスクがあり、なおかつ高レベルのスキルを既に持つ人間には学習意欲を与える動機付けがなく、結果的には「貧者の平等」しか達成できないおそれもある。
つまるところ、地域通貨は現状の能力主義(=資本主義のインセンティブそのものでもある)パラダイムにおいてはかなり下位階層のスキームにとどまらざるを得ないのではないか、と思われる。具体的には『貧乏人の相互扶助』であり、比較的能力が劣る人間どうしがその能力を融通しあって最適化を図るための手段と位置づけられよう。
余談になるが、このような社会下層部での相互扶助は、近代前半までは暗黙の規範として下町に根付いていた「人情」と呼ばれるものそのものであったが、社会の流動化と価値規範の(経済尺度への)統一化によって消滅した概念でもある。皮肉な話ではあるが、地域通貨はその『下町の人情』を制度化されたローカル金融システムによって復活させることになるかもしれないし、それは今後階層化が進むと予想される日本社会において、下層階級の生活を保障する重要な概念となりうるかもしれない。
ちなみに、もちろん(能力が高い)エリート層コミュニティでも同様の試みは理論的には構築可能であると思われるが、エリート同士のサービス交換は、既に社会的価値を認知されたスキルの提供になるため、既存の国家通貨を用いた方が効率的であり、実践されるかどうかは不明瞭だと思われる。
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